DRIVER UNIT for STAX EARSPEAKERS
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そ の 4


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TAKAさんのSiC FET STAXドライバー



・掲示板で、私のSTAX ドライバー(SiC-MOS使用)についてコメントを頂いたTAKAさんから、TAKAさんが製作されたSTAXドライバーの回路図等の資料を頂いた。


・これは、そのうちの一台で、ロームのSic MOS-FET SCT2450KEを終段に起用されたSTAXドライバー。


・TAKAさんに掲示板で頂いたコメント。

・「私は4年ほど前にSICを使用したSTAX ドライバーを製作し、現在でも愛用しています。当時はSCT2H12NZは無く、SCT2450KEを使用しました。SCT2450KEの欠点は入力容量の大きさと直線性の悪さだと思います。私の回路はkontonさんの回路とは異なりますが、SCT2450KEの欠点を無くすためにSICを定電流駆動させています。SICのドレイン抵抗を25Kオーム(5W)、ソース抵抗を120オームにしています。SICをドライブする回路は至ってシンプル。OP-AMP(OPA2604)を使い120オームを定電流駆動しているだけです。入力電圧に応じてSICのソース電流が変化します。イヤースピーカの出力は(25Kオーム / 120オーム)倍されてSICドレイン側から取り出します。後は差動で定電流回路を考えれば良いのです。電源は+700Vの片電源、出力コンデンサー0.15uF/1000Vでイヤースピーカをドライブしています。LT-SPICEのシミュレーションでは容量負荷120PF時、660Vp-p 時の歪は0.02% f特性は1Hz〜200KHz(-3dB)となりました。」
・浅学ゆえ、いまいち回路が分からなかったので、掲示板で回路図の公表をお願いしたところ、私のところにその回路図等の資料がやってくることになった次第。

・その回路図のPDFファイルはここ

・そしてそのアンプ部をLTSpiceで起こしたのが右。


・で、ようやく分かりました。

・この回路のキモは、右図のU3とU4のオペアンプの帰還回路にSCT2450KEも取り込んで、SCT2450KEのソース抵抗R3、R4に流れる電流を、オペアンプU3、U4の+入力電圧に比例して変化するもの(定電流駆動)にしているところですね。

これにより、SCT2450KEのドレイン電流も、従って出力電圧も、オペアンプU3、U4の+入力電圧に比例して変化するものになり、SCT2450KEの特性の影響を受けないことになります。

・後は、U3がR3を、U4がR4を逆相でドライブすれば良いので、オペアンプU6とU5が信号を6dB増幅しつつ、その正相と逆相の信号を作り出しています。

・差動動作しているSCT2450KEの定電流回路も重要ですね。

・なお、右のシミュレーション回路ではU1、U2のドレイン電流は実機同様14.3mAとなっています。350V/24.6kΩ=14.23mAと、最も出力が得られる設定です。
・ゲイン-周波数特性です。


・イヤースピーカーに見立てたC3を0.01pF(無負荷相当)と120pFとしたパラメトリック解析で観ます。


・緑が出力のゲインで、低域で58dB、高域でより伸びている方がC3=0.01pF(無負荷相当)の場合で、この場合は高域1MHzで−3dB程度、もう一方はC3=120pFの場合で、この場合は高域25kHzで−3dB程度となっています。


・ピンクは、U5,U6の差動出力までのゲインで低域で12dBとなっています。



・したがって、終段SCT2450KEで58dB−12dB=46dB≒200倍程度のゲインを稼いでいることになりますが、それはSCT2450KEのドレイン抵抗/ソース抵抗=24.6kΩ/120Ω=205倍ということです。
・入力電圧0.8V、0.83V、0.9Vの1kHz正弦波入力のパラメトリック解析でその応答波形を観ます。
・下のグラフ緑が出力電圧、ピンクがイヤースピーカーに見立てたC3=120pFに流れる電流値、上のグラフの赤と青は各相の出力電圧です。

・これを観ると、入力0.9Vp−pでは、出力電圧±700Vで飽和しています。電源電圧が700Vですから当然です。

・入力0.83Vp−pで680Vp−p=481Vr.m.s,の出力電圧が得られることが分かります。

C3=120pFに流れる電流値を観ても、入力0.83Vp−pまでは波形が乱れないので、この辺が最大出力です。
 
・次に、入力電圧0.8V、0.83V、0.9Vの20kHz正弦波入力でその応答波形を観ます。
・入力0.9Vp−pでは、出力電圧や各相の出力電圧のピーク付近が乱れており、さらにC3に流れる電流も0mA付近で乱れていることから、限界を超えていることが分かります。

・入力0.83Vp−pで560Vp−p=396Vr.m.s,の出力電圧が得られていますが、C3=120pFに流れる電流値を観ても、この辺が20kHzでの最大出力です。
 
   
・続いて、入力電圧0.25Vp−pの10kHz方形波入力でその応答波形を観ます。
・下のグラフ緑がC3=0.01pF(負荷開放相当)の場合で、ピンクがC3=120pFの場合です。

・上のグラフは各相の出力波形で立ち上がり下がりが早い方がC3=0.01pFの場合で、遅い方がC3=120pFの場合。

・C3=0.01pF(無負荷相当)の場合の立ち上がり、立ち下がりは非常に高速ですね。スルーレートは450V/uS程度はあるようです。

・C3=
120pFの場合は10uSで330V程度の立ち上がり、立下がっているので、スルーレートは33V/uS程度となっています。

・本当は入力電圧0.25Vp−p以上の信号を入力したいのですが、モデルのせいか、これ以上の電圧入力で「Singular Matrix ERROR」が出てシミュレーションが上手く出来ません。
・幸い、負荷をC3=120pFだけにした場合は入力電圧0.5Vp−pでシミュレーションが出来ました。
・結果がこうですが、この場合は10uSで570V程度の立ち上がり、立下がっているので、スルーレートは57V/uS程度となっています。
・次に入力を0.174Vp−p1kHz正弦波として出力を282Vp−p(要するに100Vr.m.s.)とした場合のFFTです。

・ここでオペアンプをOPA2406からLT1001に変更しました。

・相性が悪いのかOPA2406を用いると収束がいつになるのか分からないぐらいに時間を要するのであきらめたのです。

・LT1001では十数秒です。
・結果が右で、3次高調波が−100dB程度で、あとは測定限界以下となってます。

・Total Harmonic Distortion=0.000911%

ちなみに同条件で私のSiC-MOS起用のドライバーは

・Total Harmonic Distortion=0.002019%


・ですので、半分以下です。

・オペアンプには帰還が掛っていますので低歪率は当然かと思いますが、終段SCT2450は無帰還で大振幅の状況でこれだけの低歪率なのは凄いですね。
・試しに、こちらは入力を0.72Vp−p1kHz正弦波として、出力を600Vp−pと大振幅にした場合のFFTです。
・Total Harmonic Distortion=0.019178%

・同条件で私のSiC-MOS起用のドライバーは

・Total Harmonic Distortion=0.052632%


・負けました。(^^;
・オペアンプでSCT2450KEのソース抵抗R3、R4に流れる電流をそのオペアンプの入力電圧に比例して変化するものとして、SCT2450KEの特性の影響を受けない出力を取り出すという、とてもユニークで素晴らしいSTAXドライバーですね。



・オペアンプに好みのものを起用しても面白そうです。TAKAさんによればFIDELIX社のディスクリートオペアンプも良いようですとのことです。



・なお、以上のシミュレーションはただのシミュレーションですので、実機の特性ではありません。
   



2019年2月24日







TAKAさんの6BX7 SRPP STAXドライバー(IXCP10M90Sについても少し)



・続いて、TAKAさん製作の6BX7のSRPPを出力段に起用したSTAXドライバーです。

・その回路図のPDFファイルはここです。

・アンプ部をLTSpiceで起こしたのが右ですが、一部定数を変更したところがありますので“もどき”です。

・半導体と真空管を用いたハイブリッド構成ですが、こういう構成のSTAXドライバーは初めて見ました。ユニークですね。

・すなわち、2段差動構成で2段目の差動アンプの出力を真空管SRPPのカスコード回路で受けて出力とした、とも解釈できますが、2段目差動アンプの出力で、3段目のU1〜U4によるにSRPP回路をカソード側からドライブしている、とも解釈できます。

・また、終段には18mAのアイドリング電流を流していますので、40kHzでも400Vr.m.s.の出力が得られるのではないでしょうか。

・ゲイン-周波数特性です。


・イヤースピーカーに見立てたC8を0.01pF(無負荷相当)と120pFとしたパラメトリック解析です。が、負荷が0.01pFと120pFの場合の違いは1MHz付近以上の超高域にしか出ていません。

・上から、赤がオープンゲインで、中域で100.6dB、カーキ色が2段目差動アンプのコレクタ出力までのオープンゲインで、中域で82dB、緑がクローズドゲインで、中域で60dB、ピンクがループゲインで、中域で40.6dB、一番下の青が初段のオープンゲインで、中域で25.3dBとなっています。

・したがって、2段目の差動アンプの出力を真空管SRPPのカスコード回路で受けて出力とした回路と解すれば、初段差動アンプで25.3dB、2段目差動アンプで75.3dB稼いでいるということになりますが、2段目差動アンプの出力で、3段目のU1〜U4によるにSRPP回路をソース側からドライブしていると解すれば、初段差動アンプで25.3dB、2段目差動アンプで56.7dB、3段目SRPP回路で20.6dB稼いでいるということになります。
・入力電圧0.5V、0.6V、0.7Vの1kHz正弦波入力のパラメトリック解析でその応答波形を観ます。
・下のグラフ緑が出力電圧、ピンクがイヤースピーカーに見立てたC8=120pFに流れる電流値、上のグラフの赤と青は各相の出力電圧です。

・これを観ると、入力0.7Vp−pでは、出力電圧±600V強で飽和するとともに、C8に流れる電流も0A付近でかぎ型になるなど乱れており、限界を超えています。

・入力0.6Vp−pで600Vp−p=424Vr.m.s.程度が1kHzでの最大出力電圧ですね。

・上の各相の出力電圧を観ると、マイナスへの電圧の伸びが抑制され、その分プラス側への伸びが促進されているように観えます。マイナス側がシャントレギュレーター用抵抗による電圧と2段目差動アンプ用の電圧で、電源電圧のうちの有効電圧が低くなるためだと思いますが、NFBの効果で出力電圧は正しい波形になっています。
 
・次に、入力電圧0.5V、0.6V、0.7Vの20kHz正弦波入力でその応答波形を観ます。
・1kHz正弦波入力の場合と殆ど変わりません。

・入力0.7Vp−pでは、出力電圧±600V強で飽和するとともに、C8に流れる電流も0A付近でかぎ型になるなど乱れており、限界を超えています。

・入力0.6Vp−pでは、C8に流れる電流値に多少の乱れが生じていますが、出力電圧波形はぎりぎり正常ですので、20kHzでの600Vp−p=424Vr.m.s.程度が最大出力電圧です。

・終段のアイドリング電流=18mAが効いています。
・終段のアイドリング電流が18mAなので、40kHzでも400Vr.m.s.の出力が得られるのではないかと想定したのですがどうでしょう。

・入力電圧0.5V、0.6V、0.7Vの40kHz正弦波入力でその応答波形を観ます。

・やはり、1kHz正弦波入力の場合と殆ど変わりません。

・入力0.7Vp−pでは限界を超えていますが、入力0.6Vp−pでは、C8に流れる電流値に多少の乱れが生じていますが、出力電圧波形はぎりぎり正常ですので、40kHz正弦波美優力でも600Vp−p=424Vr.m.s.弱が最大出力電圧です。
・続いて、入力電圧0.5Vp−pの10kHz方形波入力でその応答波形を観ます。
・下のグラフ緑がC3=0.01pF(負荷開放相当)の場合で、ピンクがC3=120pFの場合です。

・上のグラフは各相の出力波形で立ち上がり下がりが早い方がC3=0.01pFの場合で、遅い方がC3=120pFの場合です。

・が、ほぼ重なっています。終段のアイドリング電流が18mAなので、負荷120pFの場合でもそれによるスルーレート=18mA/120pF=150V/uSのはずですが、拡大してみると240V/uS程度で、負荷0.01pF(無負荷相当)の場合とほぼ一致しています。

・何故でしょうか。分かりません。(^^;
・次に入力を0.145Vp−p1kHz正弦波として出力を282Vp−p(要するに100Vr.m.s.)とした場合のFFTです。
・Total Harmonic Distortion=0.002799%

・上のTAKAさんのSic FET STAXドライバーに比べるとちょっと悪いですが、私のSiC-MOS起用のSTAXドライバー
とほぼ同じです。

6BX7という真空管は初めて知りましたが、双三極管という点を生かして一本でSRPPを組んで、トランジスタの差動アンプでカソード側からドライブするという回路、とても参考になります。

     
・ところで、ここで、掲示板でgajiraさん、TAKAさんが話題にされたIXYS社のIXCP10M90S

・NMOS−FETですが、その特性はまるでJ−FETのようなデプレッション型です。

・耐圧が900Vもあり、最大損失40Wでドレイン電流も100mAが可能。

・海外のSTAXマニアが入手困難な2SA1968に変えて、これを定電流回路に起用している例があるようです。

・デジキーで1個400円ですから、入手してみても良いかな。
・早速、静特性を観ると、全くJ-FETのような特性です。

・ピンチオフ電圧は−4.3V程度です。J−FETで言うIdssは100mAとなっています。

・この静特性からgmは30mS程度とそんなに大きいものではありません。
・次に、Vds−Vgs−Id特性。
・見事な五極管特性ですが、ちょっとモデリングが理想化(簡素化)されすぎているようですね。そのデータシートに載っている特性図では出力インピーダンスはこんなに高いものではありません。
・これを使うと、私のSiC-MOSを起用したSTAXドライバーも定電流回路がこうなって簡素化出来ます。
・そのゲイン-周波数特性ですが、2SA1968を使用した場合と殆ど変わりません。

・ただ、何故かこの場合は帰還回路の300kΩにパラの1pFが不要になりました。
・他は有意な違いはありません。

入力を0.14Vp−p1kHz正弦波として出力を282Vp−p(要するに100Vr.m.s.)とした場合のFFTだけを観てみます。
・Total Harmonic Distortion=0.001346%

・2SA1968を使用したものは

Total Harmonic Distortion=0.001609%

・でしたから、少し良くなりました。

・が、同じと言えば同じ程度です。
     
・また、TAKAさんが「終段にSRPPとして使っても面白そうですね」とおっしゃっていました。

・そこで、右のようなものを考えました。

・私のSiC-MOSを起用したSTAXドライバーの終段をTR差動アンプ+IXCP10M90SによるカスコードSRPP回路に変更したものです。

・SRPP回路については殆ど知識はないのですが、これで終段がSRPP動作をしているでしょうか。
・先ずは、そのゲイン-周波数特性です。

・イヤースピーカーに見立てたC3を0.01pF(無負荷相当)と120pFとしたパラメトリック解析ですが、上手く動作しているようですね。

・上から、赤がオープンゲインで、低域で127.5dB、青がループゲインで、低域で67.5dB、緑がクローズドゲインで、低域で60dB、一番下のピンクが初段のオープンゲインで、低域で14.7dB、中域で18.3dBとなっています。

・SRPPにIXCP10M90Sと起用すると、gmがそれなりに大きいのでそのVgsの振幅は小さくなりますから、M1,M2のIXCP10M90Sはほぼカスコード接続と考えるべきでしょうか。そう考えた場合2段目差動アンプのゲインは低域で112.8dBもあるということになります。

・特性は非常に素直ですし、特段の位相補正措置なしでこれはなかなか凄いです。

・SRPPとはシャントレギュレーテッドプッシュプルいうことですが、ということは、右のM1とM3、M2とM4がプッシュプル動作していれば、この回路構成でSRPPが成り立っているということになると思います。

・それを観るため、0.5Vp−p1kHz正弦波を入力して、その場合のM1〜M4の電流値の推移等を見ます。
・まず、右の下の出力電圧と各相の出力電圧を観ると、アンプとしての動作は上手くいっていることが分かります。

・図の中央がM1〜M4のドレイン電流の推移ですが、M1とM3,M2とM4のドレイン電流は振幅量は異なるものの一方が電流増加の際に他方が電流減少となっており、位相差も多少ありますがプッシュプル動作をしていますね。

・少なくともM3、M4は定電流動作ではありません。

・右の上のカーキ色が各相SRPPの上のIXCP10M90Sの電流値から下のIXCP10M90Sの電流値を引いたものですが、これが下の図の出力電圧を作り出していることになります。

・SRPP動作をしているようですね。
・入力を0.141Vp−p1kHz正弦波として出力を282Vp−p(要するに100Vr.m.s.)とした場合のFFTを観ます。
・Total Harmonic Distortion=0.000860%

・なかなかに低歪率になりました。



・作ってみようかな、という気になりますね。



2019年3月1日







TAKAさんのIXCP10M90S SRPP STAXドライバー



・TAKAさんがIXCP10M90Sを起用した SRPP STAXドライバーを製作されました。



・既存の自作KGSS風STAXドライバーの電源部、ケース等を活用し、アンプ部を交代する形で製作されたということです。



・その回路図のPDFファイルはここです。



・また、入手されたIXCP10M90Sの実測データがここです。



・こういう回路のSTAXドライバーは世界初でしょう。
・アンプ部をLTSpiceで起こしたのが右です。



・殆ど原回路通りですが、定電圧IC LM358−1.2を05AZ1.6で代用するなど、多少の違いがあります。原回路では入力にCを挿入して不要な直流入力を遮断・防止していますが、このシミュレーションではそのCは省略しています。



・また、シミュレーションでは50MHzの発振を再現できませんでしたので、フェライトビーズは挿入していません。



・この状態でV(OUT1)、V(OUT2)の差電圧は−34mV程度、V(OUT)のオフセット電圧は−0.5mV程度、終段の動作電流は12.2mA程度となっています。
・ゲイン-周波数特性です。


・イヤースピーカーに見立てたC8を0.01pF(無負荷相当)と120pFとしたパラメトリック解析です。負荷が0.01pFと120pFの場合の違いは3MHz付近以上の超高域にしか出ていません。

・上から、赤がオープンゲインで、低域で123dB、青がループゲインで低域で63dB、緑がクローズドゲインで低域で60dB、カーキ色が2段目差動アンプのコレクタ出力までのオープンゲインで、低域で38dB、ピンクが初段のオープンゲインで、低域で14.5dBとなっています。

・したがって、2段目の差動アンプの出力をIXCP10M90S SRPPのカスコード回路で受けて出力とした回路と解すれば、初段差動アンプで14.5dB、2段目差動アンプで108.5dB稼いでいるということになりますが、2段目差動アンプの出力で、3段目のM1〜M4によるにSRPP回路をソース側からドライブしていると解すれば、初段差動アンプで14.5dB、2段目差動アンプで23.5dB、3段目SRPP回路で85dB稼いでいるということになります。

・要すれば、2段目の差動アンプとIXCP10M90S SRPP回路が協力して108.5dBの電圧ゲインを稼いでいるということです。
・実機で、フェライトビーズでの対策前に発生した50MHzでの発振波形のオシロ写真を頂きました。



・まずは時間軸が10mS/div、電圧軸5V/divのものです。



・この時間軸ですと、数十kHz程度の信号が上手く見えるところですが、それよりはるかに高い周波数の発振信号であることが分かります。
・こちらは、時間軸を100万倍して10nS/divにして見たものです。電圧軸は5V/divと同じです。

・発振波形の正体がしっかり現れています。

・周期20nS=50MHzの正弦波的な発振波形です。

・この発振がある状態では、入力ボリュームを絞った状態で差動出力のオフセット調整が一旦完了しても、入力ボリュームを上げていっただけで出力バランスが100V程度も崩れてしまったり、出力から低周波のバズ音が出たり、しかもそのレベルがケース上蓋の取り外しでも変わるといった症状が出るものだったそうです。

・この5Vp−pの50MHzの発振波形も、基板近くに手をかざすと影響を受ける状況だったということです。

・発振状態になると、そういう症状に見舞われることは、私も経験がありますが、問題は、その原因を突きとめて対策が出来るかどうかなんですが、位相補正とか、ベースやゲートへの抵抗の挿入ぐらいしか私の経験にはありません。

・フェライトビーズの挿入というのは、高周波特性に優れたスイッチング用パワーデバイスの世界では一般的のようだと掲示板でTAKAさんがおっしゃってますが、まさにそのフェライトビーズの挿入でこの50MHzの発振を調伏されたTAKAさん、お見事です。
   
   
・終段のSRPP、すなわちシャントレギュレーテッドプッシュプル動作の内容を観てみます。



・先ずは、±0.5Vp−p1kHz正弦波入力の場合です。
・一番下の出力電圧と各相の出力電圧は当然問題ありません。



・図の中央が差動アンプのQ6、Q7のコレクタ電流とM1、M2のドレイン電流の推移です。M3,M4のドレイン電流は当然Q6,Q7のコレクタ電流と同じですから表示していません。



・要はQ6のコレクタ電流とM1のドレイン電流、そしてQ7のコレクタ電流とM2のドレイン電流がが対になってプッシュプル動作をしているかどうかですが、上でも観たとおり、電流値差と位相差はありますがプッシュプル動作はしていますね。



・そして上のカーキ色が各相SRPPの対素子の電流差値ですが、これがちゃんと出力電流となっています。そしてその電流によって一番下の出力電圧が作られていることが分かります。
・異なる周波数でも観てみます、



・±0.5Vp−pは同じですが、100Hz正弦波入力の場合です。
・±0.5Vp−p1kHz正弦波入力の場合とあまり変わりません。
・次に、同じく±0.5Vp−pで、10kHz正弦波入力の場合です。
・同じように見えますがちょっと変わっています。



・100Hzや1kHzの場合は、差動アンプQ6とQ7のコレクタ電流変化よりM1,M2のドレイン電流の変化量が大きかったのですが、10kHz入力では差動アンプ側のQ6とQ7のコレクタ電流変化の方が大きくなっています。



・面白いですね。
・入力電圧±0.6V、0.63V、0.65Vp−pの1kHz正弦波入力のパラメトリック解析でその応答波形を観ます。
・下のグラフ緑が出力電圧、ピンクがイヤースピーカーに見立てたC8=120pFに流れる電流値、上のグラフの赤と青は各相の出力電圧です。



・これを観ると、入力±0.65Vp−pでは、出力電圧±630V強で飽和していますし、C8=120pFに流れる電流値も0A付近でかぎ型に乱れているので限界に達しています。



・入力±0.63Vp−pで±628Vp−p=444Vr.m.s.が最大出力電圧です。
・次に、入力電圧±0.6V、0.65V、0.7Vp−pの20kHz正弦波入力でその応答波形を観ます。
・1kHz正弦波入力の場合と殆ど変わりません。



・入力±0.7Vp−pでは、出力電圧±630V強で飽和するとともに、C8に流れる電流も0A付近でかぎ型になるなど乱れており、限界を超えています。



・入力±0.65Vp−pでは、C8に流れる電流値に多少の乱れが生じていますが、出力電圧波形は±642Vp−pでぎりぎり正常ですので、20kHzでは±624Vp−p=441Vr.m.s.程度が最大出力電圧です。



・20kHz正弦波入力でも、1kHz正弦波入力の場合とほぼ同じ出力が得られることが分かります。アイドリング電流が12.2mAですので電源電圧との関係からこうなりますね。
・続いて、入力電圧±0.5Vp−pの10kHz方形波入力でその応答波形を観ます。
・下のグラフ緑がC8=0.01pF(負荷開放相当)の場合で、ピンクがC8=120pFの場合です。



・上のグラフは各相の出力波形で立ち上がり下がりが早い方がC8=0.01pFの場合で、遅い方がC8=120pFの場合です。が、ほぼ重なっていますね。



・負荷0.01pF(無負荷相当)の場合も、負荷120pFの場合もV(OUT)の出力波形は非常に綺麗です。



・終段のアイドリング電流が12.2mAなので、負荷120pFの場合のスルーレート=12.2mA/120pF=101.7V/uSのはずですが、10uSで900V程度の立ち上がり立下りですので、スルーレートは90V/uS程度です。帰還回路に分流する電流がありますから、これで理屈通りでしょう。
・入力を±0.141Vp−p1kHz正弦波として出力を±282Vp−p(要するに100Vr.m.s.)とした場合のFFTを観ます。
・Total Harmonic Distortion=0.000838%



・非常に低歪率です。

・TAKAさんが、掲示板に、製作された3台のSTAXドライバーの音を比較した内容を投稿されました。SR−009での試聴とのことです。ここに再掲させていただきます。

・No.1 6BX7 SRPP
・No.2 SCT2450 + OP-AMP(JRC製MUSE01)
・No.3 IXCP10M90S SRPP 

・それぞれ大きな違いはありませんが、個性はあります。

・No.1は真空管を終段に使っていますが、どちらかというとトランジスタアンプの良い意味で躍動的な音を感じます。(金田式プリアンプALL FETよりもNO.168のような印象)

・No.2は使用するオペアンプで音の傾向が変わるようです。最初はOPA2604を使用しました。サラットした印象で、心地良いです。MUSE01に交換すると印象が変わり、濃密な印象で、人の声などはすばらしく、暖かい音です。

・No.3は3台の中では一番ニュートラルに感じます。標準器でしょうか。14年前に製作したときの入力ボリュームを使っていて少しガリっていました。アルプスの角型ボリュームに交換したら1枚ベールが剥がれ、トライアングルなどの金属音がリアルに感じられます。
     
・TAKAさんには、独自の回路でのSTAXドライバーをいくつも紹介して頂きました。

・TAKAさん、ありがとうございます。
  



2019年4月13日




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